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キーファーズ編集部録

【武豊騎手×松島正昭 対談】凱旋門賞直前スペシャルインタビュー

2022.09.09 キーファーズ編集部録

──このお二方が対談をするのは初めてになります

松島正昭オーナー(以下松島)「実際に会うのは3週間ぶりくらいなんですが、動画では毎日会っています(笑)。昨日も一昨日も見返していました。(ダービー優勝の瞬間を)何回見ても感動しますね」
武豊騎手(以下武豊)「もうダービーから3カ月ですか。何というか、いまだに冷めないですね。普段はそれほど意識をしていませんし、どちらかというともうすぐフランスだなという気持ちなんですが、夏は北海道に滞在していたのでダービー以来に会うという方が多く、みなさん『おめでとうございます』、『良かったですね』と始まるので、ダービーの話をほぼ毎日している感じがします」
松島「3カ月経っても違いますよね」
武豊「そう感じられるのはダービーだけ、ダービーだからこそなのかな、と思います」
松島「いやいや、武さんだからですよ」

──そのドウデュースが凱旋門賞に挑戦します。あらためて、今の気持ちはいかがですか

松島「段取りが大変です。(笑) フランスに行った日はどうするか、どこでご飯を食べるか、当日よりもその前がもうね、いろいろと大変なんですよ」
武豊「オーナーはそれでいいと思います。そういう面で頑張ってもらって、こちらはこちらで自分のコンディションと馬のコンディションでね。僕も大変です」

──今の段階での期待は

武豊「明日(8月24日)、ダービー以来初めて跨るんですよ。ものすごく楽しみだし、ちょうど先週の札幌記念で大江調教助手(大江祐輔調教助手)に会って、いろいろ話を聞きましたからね。そういうところで、どんどん近づいている感がありますね。また明日乗ったら、何かこう、いろいろと思うことも増えてくるだろうし。ただ、ドウデュースに近いサイドの我々は冷静でいなければいけません」

──とは言いつつも、やはりこの馬で、この勝負服で凱旋門賞に挑むとなると・・・

武豊「昨年ブルームに乗せていただきましたが、それとはまた違いますね。日本の馬で、しかもドウデュースにはデビューから乗り続けていますから」
松島「ディープインパクト以来だそうですね。武さんがデビューからずっと乗り続けているダービー馬で凱旋門賞に挑戦するのは」
武豊「そうですね。そういった意味でもちょっと違うのかなと思います」
松島「勝負服云々よりも、少なくともチャンスがある馬で行ける、というのが楽しいですね」
武豊「ワクワクします」
松島「僕はどの勝負服でもいいと思っているけれども、たまたま僕の勝負服で、というのが本当に良かったです。もう2度とないことなので、頼みますよ」
武豊「いやいや、まだありますよ」
武豊「まあでも、ながらく普通の友人、と言ったらおこがましいかもしれないけれど、仲が良かった人から馬主さんになられて、その方の馬で一緒にダービーを勝って凱旋門賞に行くなんて、『こんなことあるんや』って思いますね」
松島「僕も毎日そう思っていますよ。『ありえへん』って」
武豊「すごい確率ですよね」
松島「宝くじが当たったようなものなんです、本当に。ありえない」

──武豊騎手が初めてドウデュースに乗られたとき、ここまで駆け上がってくると少しでも感じたのでしょうか

武豊「デビューはちょうど昨年のこの時期ですよね。僕は乗るまでそれほど評判は聞いていませんでしたし、松島さんからも特に話を聞いていたわけではありませんでしたが、乗ってちょっとびっくりしたんですよ。凄い走るんです。なので、『意外と走りますよ』って言ったんですけどね。でも、周囲の反応が薄いというか、それほどでもなかったので。やはり友道康夫厩舎ですし良血馬、高額馬がたくさんいて、なんとなく小倉の最後にデビューって聞くとちょっと主力からは外れているのかなという感もありますからね。それに、最初は1200メートルでもいいですよ、という話だったんですよ。『1200メートルでも1800メートルでもいいですよ』と言われていて、『いやいや、1800メートルで大丈夫ですよ。めっちゃ走りますよ』って」

──それであのような勝ち方をされて、その後も連勝しました

武豊「乗る度に良くなっているし、1回ずつ期待通りの走りをしてくれるし、成長もしていってくれましたね」
松島「みんな信じていませんでした」
武豊「そうなんですよ。走るんですよ、とずっと言っていたんですよ。なかなかいないですよ、あのレベルは」

──それで、競馬界の7不思議の1つともいわれた「朝日杯FSを勝てない」ジンクスを見事に覆しました

松島「あれは良かったです。そのジンクスだけが心配だったんです」
武豊「僕が30年以上勝てなかったレースを勝てたんですから、そういう馬なんだと思うと、僕の悲願を達成してくれるのもこの馬なのかな、と。もちろん競馬なのでいろいろありますが、単純にいいことだけをとらえれば、一緒に初めてのGⅠを勝たせてもらったし、久しぶりに観客が入ったなかでダービーを勝ったりだとか」

──20代、30代、40代で勝ったから、50代でも勝ちたいと言ったダービーでした

武豊「そうですね。そのダービーを初めて勝ったのはスペシャルウィーク(1998年)なんですが、あれは10回目のトライだったんです。それで、凱旋門賞が今年で挑戦10回目。そう思える馬ですね」
松島「ちょっとちょっと・・・。そんなうまいこと行きませんけど、でもね。10回目なんですか。最初はホワイトマズル(1994年6着)でしたよね」
武豊「もうそろそろ(勝っても)いいでしょう」
松島「そもそも、凱旋門賞を日本に流行らせたのは、武さんですからね」
武豊「最初の頃は、凱旋門賞を勝ちたいと言ってもみなさんピンと来ていませんでした。『イギリスですか?』と言われたこともありますし、競馬関係者でも全員が知っているわけではありませんでした」

──そう考えるとますます、今年は違う雰囲気が漂いますね

武豊「これまで9回騎乗してきて、それぞれに強い思いやテーマがありましたが、今年はまたちょっと違う感じがします。ディープインパクト、キズナと過去2回ありましたが、やはりダービー馬で行けるのっていいですね。日本の代表として、胸を張って行けるんですよ」
松島「ディープインパクトのときの悪夢がありますからね、武さんには」
武豊「そうです。あのディープインパクトのこともあっての今だと思っています」
松島「あのときはまだ僕は馬主ではありませんでしたが、かなり落ち込んでいましたね」
武豊「あの馬なら勝てると思っていたので、個人的にすごく残念な気持ちが強くて・・・」
松島「ダントツの1番人気でしたからね」
武豊「負けて、そのあと失格になって・・・。『よし、来年』と思ったときに引退発表だったので、余計に落ち込みました」

──仮に、春に2冠したら菊花賞を考えましたか

松島「行くわけがありません。武さんならどうですか」
武豊「3冠はすごいと思いますが、僕はフランスに行きましょうと言いますね。もし2冠していても、これはちょっと・・・と思うような馬なら菊花賞に行きましょうと言います。そこは実力によってですね。2冠していなくても実力的に行ってほしいという馬と、菊花賞に、という馬はいると思います。ドウデュースはフランスに行きましょうと自信をもって言えます。ダービーの前に『3着までなら凱旋門賞に行こう』と松島さんは言ってくれましたが、僕の中では、走り終わってから『よしこれで向こうに行ける』という感覚を持って行きたいと思っていたので。例え負けていても、レース内容などで(行きましょうと)言っていたかもしれませんし。勝っても時計が遅かったり内容的にもうひとつと思ったら、秋は日本でいいじゃないですか、天皇賞でいいんじゃないですか、と言っていたかもしれません」
松島「では、武さん的には手応えがあったわけですね」
武豊「もちろんです。期待通りの走りでした」

──もし凱旋門賞を勝ったら、オーナーはどんな武豊騎手の姿を見たいですか

松島「泣いている武豊‼男泣きとかはしないけれど、呆然としていると思いますよ」
武豊「見たいですか?っていうよりも、僕より先に松島さんの方がエラいことになっていると思いますよ(笑)。それが心配です。ダービーであれだから」
松島「いや、でもダービーよりも凱旋門賞の方が冷静だと思いますよ。勝ったら、喜ぶというよりも、たぶん武さんをずーっと見ていると思います。別に凱旋門賞を勝つのは僕の夢ではないですから」
武豊「いや、倒れるんちゃいますか(笑)」
松島「どうなるんでしょうね、本当に。でも、そんなに甘いものではありませんから。向こうはすごい雰囲気ですから。もうリスペクトですよ。パドックから馬場に入っていくときも」
武豊「本当にそう思います。レッドカーペットの上を歩いたことはありませんが、歩いているような気分になりますね。きっとこんな感じなんだろうなって」
松島「あれを見ているだけでも感動しましたから。それで、レースが終わったら馬上でインタビューなんですよね。それを見たいです。武さんがなんて言うのか」
武豊「そうであればいいですね」

──こうしてみなさんそれぞれが思いをはせることができるって素晴らしいですね

武豊「そうやって楽しませてくれる馬です、ドウデュースは。また、凱旋門賞はそういうレースです」
松島「こういう風になったことがすごいドラマチックというか、ありがたいです。なかなか思ってもなれるものではありませんから」
武豊「夢なんて、語るだけでもすごく面白いのに、それがもし実現となったら・・・」
松島「いい勝負をしてくれたらいいですね。一瞬でも夢を見させてくれたら」
武豊「これがデビューしてまだ1年しか経っていないんですから、すごいですよ」
松島「日本からはタイトルホルダーなども挑戦しますが」
武豊「レースではライバルですし協力することはありませんが、レース以外では協力できることがあればしていきたいですね、と栗田さん(栗田徹調教師)とは話しています。彼は初の遠征ですしね」
松島「向こうでは本当に気を付けなければいけないことがたくさんありますからね」
武豊「些細なことかもしれませんが、これまで肌で感じて経験してきたからこそ自分なりに言えることもあります。それに、シャンティイには実際に住んでいましたしね。年によってバラバラですが、9月は雨ばかりだったり、めちゃくちゃ寒いこともありますから。今年はいまのところまだ暖かいらしいですが」
松島「晴れて良馬場だったら」
武豊「いいんじゃないですか。でもこの時期はなかなかそうはいかないでしょう。少しは雨が降ると思います」

──ドウデュースの向こうの馬場への適性についてはどうでしょう

松島「それは聞きたいですね」
武豊「まったくダメではないと思います。日本の馬場よりもむしろ良いとは言いませんが、調教では重いウッドチップでも走りますし、芝の良馬場の速いタイムでも走るので、そういう馬はいいんじゃないのかなと思っています。幸四郎(武幸四郎調教師)は『ドウデュースは向こうの馬場に合う』って言うんですよ。『お前乗ったことなやん。向こうで乗ったことないし、ドウデュースにも乗ったことないやろ』って(笑)。まあでも、幸四郎が言っているから大丈夫です」

──勝つための現状の課題はありますか

武豊「課題というよりも、すべてがうまく行かないと勝てないでしょう。馬のデキも最高で、レースも僕がうまく乗って、展開も向いて運もあって・・・。全部が噛み合わないと勝てないレースですから。ダービーもそうでしたけれど」
松島「もしかしたら凱旋門賞で逃げるかもしれませんね」
武豊「かもしれません。というか、全部を選択肢に入れておかないといけませんね。ニエル賞についてはどうせ他の馬は行かないでしょうから、逃げてもいいのかな、という選択もありだと思います。いずれにしろ、次につながるレースをしなければいけません。勝敗よりも内容にこだわりたいですね。次にマイナスになるようなレースは絶対に避けたいので。もう1つ、ドウデュースにロンシャンの2400メートルを経験させるということが大きいのですから。本番と同じレース展開になるわけではないので、そのあたりは柔軟に対応したいですね。日本の競馬の感覚で前哨戦を使うのとは、また少し違うと思います」

──あらためて凱旋門賞に向けて

松島「様々なインタビューで、『武さんとこういう関係で、一緒に凱旋門賞に行けて良かったですね』と言われるんですが、それはあくまで僕ら2人のことなんです。それより、武豊騎手が凱旋門賞勝利に近づくということにスポットライトを当ててほしいですね。そうでなければ他の馬主さんをはじめ、関係者やファンは面白くないと思います。武豊騎手が凱旋門賞を勝てるかもしれない、っていうところが面白いんですよ」
武豊「僕は35年ジョッキーをやってきての今ですからね。もし今年、そうやって大きな夢を達成できたなら、それは今までの人たちに感謝ですし、今までの馬たちのおかげだと思います。そこは大事にしたいですね」
松島「たまたまドウデュースだったっていうだけでね」
武豊「チャンスがあるって言って挑めるのは大きいですよ。ただただ挑戦します、というわけではなく、もっと具体的に見えていますから」
松島「ダービーを勝ったときの自分は想像できなかったけれど、凱旋門賞を勝ったときの自分は想像できますよ」
武豊「いや~それはどうでしょう。凱旋門賞の前日とか当日の朝とか、本当に心配ですよ(笑)」
松島「いろいろな段取りで気を紛らわせておきますよ」

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